2011-09-26 Webマガジン『我逢人』Vol.5 を発行しました。



「名月と高槻市街」

蔦の階段

 大阪市中央区の八軒家浜にほど近い風情ある石畳の階段。幕末の志士たちも駆け抜けたと言われる歴史的価値のある階段だ。その景色をさらに風情あるものにしていたのが、階段沿いの法面に一面に生い茂る見事な蔦の葉だった。その蔦が、ある朝根こそぎ刈り取られていた。殺風景なコンクリートむき出しの法面を見た時、なんとも言いようのない哀しい気持ちでいっぱいになった。
 大阪市に訊ねると、案の定、刈り取られた理由は「隣の住宅に蔦が伸びて苦情が出たから」の一言だった。苦情が出たら出たで、他にやり方はなかったのか。伸びて迷惑になっている部分だけ刈り取ればいいだけのことではないのか。市の担当者は現場を確認もせずに、業者に電話一本で指示を出したと言う。現場の人間も人間で、その見事な蔦を見て、すべてを刈り取ることに何の躊躇もなかったのか。蔦は生い茂るのに何年とかかる。都会に行き交う人々の心を潤し、癒してくれていた物言わぬ植物を、いとも簡単に根こそぎ刈り取ってしまうこの行為に、私は人間のエゴを垣間見ると同時に、100か0かという極端な発想に恐ろしささえ覚える。人間はもっと自然に対し謙虚になってもいいのではないか。そして100か0かではなく、アナログ的なしなやかな発想が大事なのではないか。ともすると人は知らず知らずのうちにデジタル的な考え方に汚染されてしまっているのかもしれないと、蔦の事件(私にとっては事件でした)を通して考えさせられた。(毛利 聡子)

レジリエンス

レジリエンス(Resilience)という言葉がある。

  • 困難な状況にもかかわらず、うまく適応できる力。困難からの回復力、危機耐性。


 採用では、一生懸命その人の強みを探す。しかし、それは程よい環境において能力が活かされる前提である。「自分が正しく評価されていない」「協力者がなく孤立無援で奮闘しなければならない」といった窮地に立たされた時に持てる能力が十分に発揮できるかどうか、逆境に強い人を見抜くという観点から、レジリエンスの考え方は大切な視点だと思う。

 レジリエンスの高い人の特性について、阪根健二助教時(香川大学教育学部)は次のようなものを上げている。

  1. 肯定的な未来志向性:未来に対して肯定的な期待を常にもっていること
  2. 感情の調整:感情のコントロールを行えること
  3. 興味・関心の多様性:さまざまな分野に興味・関心をもっていること
  4. 新奇性追求:新しいものを探求する好奇心を持っていること
  5. 忍耐力:耐えることを厭わないこと

また、レジリエンスが高まる要因として、

  1. 安定した家族環境や親子関係
  2. セルフ・エスティーム(自己肯定意識)や共感性
  3. コンピテンス,スキル,ユーモア

その他、コミュニケーション能力などの様々な因子を上げている。



 困難な状況を乗り越えるには、これまでの経験や知識の積み重ねや、物事を深刻に受けとめる慎重さより、気の持ちようが重要であると言えるかもしれない。新しい物事に対してしり込みせずに飛び込み、多少の痛い目にもめげない楽天的な性格の人というイメージだろうか。それは単に困難を乗り越えるだけではなく、創造の源泉であり、多くの日本人が元来持ち合わせている大きな特性である。

 採用に限らず、「矜持(きょうじ)を持ってあらゆるものに関心を持ち関わっていく姿勢、それを通じて、いかに自分自身の自己肯定意識を高めることができるのか、つねに考えながら行動すること」が自己の成長にも社会へ関わっていく上での貢献にも繋がっていく。

 教育現場においても、例えば、児童がトラウマ的出来事などから立ち直り、良識ある成人として育つためにはレジリエンスは重要であり、虐待などの連鎖を断ち切り、子どもや家族が持っている自尊感情を引き出すことが必要である。具体的アプローチ(教師等の支援)が望まれる。
 また、企業経営の世界においても、経営戦略と連結した成果主義による評価、時々刻々と変化し複雑性を増す環境に翻弄される社会人が、そのリスクを把握して順応性があるメカニズムを創り出し、自らのレジリエンスを高めていくことが要求されている。

 一人ひとりが、根拠のない不安から根拠のある自信をもって活躍できるために、さまざまなものが統合された相互依存的支援システムが望まれている。(横山)


コミュニティの大切さ

 3月の東日本大震災から半年が過ぎた。被災地では復興に向けて懸命の努力が続いているが、今なお辛い思いをされている方がたくさんいらっしゃる。そして今月、台風12号、15号が相次いで日本列島の広範囲に大きな被害をもたらした。3月以降、改めて自然災害の恐ろしさを噛みしめる日々である。

 そんな中、先日「よみうり防災フォーラム 次の大震災にどう備えるか」のパネルディスカッションで、前兵庫県知事の貝原俊民氏に直接お話しを伺う機会を頂いた。貝原氏は、戦後初と言われた突発的な大災害、阪神・淡路大震災の復興を指揮された方だ。そのご経験から、東日本大震災のように広域災害になった場合に備え、自治体間の広域水平支援の仕組みを早急に制度化するべきだが、それとて発災直後には限界があるので、“自分の命は自分で守る”という意識が必要だと説かれた。更に、「自分ひとりで身を守るには限界がある。阪神大震災の時もそうだったが、みんなが助け合っているコミュニティは強い。日頃から近所付き合い、人との絆が非常時に大事になってくる。」と、コミュニティの大切さを強く訴えられた。実際に、震源に近く、多くの家屋が倒壊しながら淡路島の北淡町で犠牲者が出なかったのは、互いをよく知るコミュニティが存在したからだと言われている。

 日本では特に都市部や過疎地で、旧来のコミュニティが衰退し、核家族化がますます進んで人と人との結びつきは極めて弱くなっている。今後は時代に即した新しいコミュニティが地域社会に必要になってくると貝原氏は強調された。三重県では1998年にボランティア有志200人が主体となって「ハローボランティア・ネットワークみえ」が設立され、この団体が三重県下の災害ボランティアを「ハローボランティア」として組織化しているそうだ。ハローボランティアは、災害時に柔軟な活動ができる仕組みを整備するなど、地域において自主的な防災体制を構築するとともに、平常時には各種イベントを開いて地域の人々と交流を深めている。

 防災のみならず、教育、福祉、防犯、環境などの対策も含めて、地域コミュニティの存在価値が再認識されつつある今、改めてお互いの顔を知る、温かいコミュニケーションのある地域社会をどう作っていくかは、一人ひとりが真剣に考えていくべき問題だと思う。(毛利)


マッチングの現状

 6月からある企業さんの採用活動をお手伝いをしている。毎年複数人の新卒を採用する会社ではなく、十数年ぶりに新卒新入社員を迎える。ごく普通に求職/求人のマッチングという言葉が使われているが、双方の立場の話を伺うと、それぞれの思い入れがよく伝わってくる。
 マッチングというと、カードの神経衰弱のようなたまたま開けてみて合っていればよし、というなにか表層的、非人間的な響きがある。求職している学生にしてみれば人生の大きな選択をしているわけだし、企業側にしてもこれからの会社の将来を担ってもらう人材を求めているわけなので、かなり本気なのである。
 今回の活動ではマッチングとはかなり様子の異なる採用活動ができた。学歴は関係なく、必ず身近によい子がいる、だからその子を一本釣りで探す、そのために、いいとことも悪いところもお互いに十分に分かった上で判断する。いわば仲人つきのお見合いといったところだろうか。

ところでマッチングの現状について以下のようなデータが出ている。国内の役員を除く雇用者の年間転職者数と全就業者数の割合は251万人 / 6257万人= 約4%。(参考:平成23年2月21日 総務省統計局資料 )つまり、転職者の90%は求人サイトや職業紹介サービスを利用しないということになる。



この年間転職者のうち、活動中の求人広告サイトや、有料職業紹介サービスに登録する「転職に積極的なセグメント」の割合は、アメリカでは16%程度(www.HRMreport.com)、国内でも10%前後といわれており、現在の国内人材ビジネスサービス市場でさえも、全転職市場の10%程度しかカバーしておらず、残り90%の転職者は求人広告や有料職業紹介などを活用していないということになる。

 大量に学生を集めて出来のよさそうな学生をつまみ上げるのではなく、じっくりと向きあって一人ひとりの良さを見つけ、お互いに心を開いて話しあった結果、「この会社で働きたい」「ぜひ内へ来て欲しい」となって内定が決まるのが望ましい。採用コンサルタントは、紹介リストの照合係ではなく、個人と企業を繋ぐコネクターとしてアクションしたい。(横山)


若者支援のあり方 ~Money Connectionから考える~

 先日、大阪府立高校で高校生の就職支援をしておられる就職コーディネーターの方々に、府内の高校での普及を目的に、Money Connection ~ニート予防をめざした金銭基礎教育プログラム授業~ のデモンストレーションをさせて頂きました。普段高校生が受けている授業を実際に大人に体験して頂いたのですが、約60名のうち半数の方が、終了後「高校生にも受けさせたい。興味を持った」と答えてくださいました。
 ともすると、大人は若者のキャリア支援の現場で、自分の価値観を押しつけがちです。「金銭教育」「お金と仕事の授業」というと、「どうせ正社員になれというお話でしょ?」と言った生徒がいたそうです。現実問題、就職活動真っ最中の生徒と向き合う時には、本人の夢や理想はとりあえず横に置いて、内定にこぎつけるということが目標になります。「まずは正社員をめざそう」「就職浪人はなんとしても避けよう」と。ですから、できるだけ早い段階、1年生、2年生の時に、自分の将来の生き方も含めた働き方、稼ぎ方を考えるきっかけを与えてあげることが重要になってくると思います。

 Money Connection は元々ニート対策として特定非営利活動法人「育て上げ」ネットと新生フィナンシャル株式会社が開発したプログラムです。高卒で就職する生徒が多い高校や、定時制高校に出向いて授業を行うことが多く、生徒の中には最近親がリストラされたとか、生活保護の家庭などシビアな現実がそこにあります。
 このプログラムは、グループワークの中で、①「働き方・稼ぎ方カード」(フリーター・派遣社員・正社員の3パターン)、②「月収カード」(15万円、30万円、100万円の3パターン)、③10年後、20年後の「暮らし方カード」(独身・既婚子供なし・既婚子供1人・既婚子供2人の4パターン)の三種類のカードをそれぞれトランプのように一人一枚引いてもらいます。偶然引き当てたカードの内容でシミュレーションしていくため、現実の自分とは違う仮定の世界で気づきが得られ、ゲーム感覚で楽しみながら「お金と仕事のこと」に触れられます。与えられた情報をもとに、知らず知らずのうちに将来のことを考えるきっかけができた、今やるべきことは何かに気づけた、という仕組みになっています。



 そして、講師やファシリテーターは、例えば正社員・派遣社員・フリーターのメリット、デメリットといった“客観的な情報のみを提供すること”に特に注意しながら進めていきます。なぜなら、大人の主観的な価値観の押し付けは、生徒本人の主体性や価値観を曲げてしまうことに繋がるからです。自分の価値観に気づかず、他人の価値観に基づいて決められた進路選択はのちのち何かあった時に必ず後悔します。ですから生徒が自分自身の価値観に沿った働き方の選択ができるようになる情報をたくさん提供していくのです。

 プログラム全体を通して、自分はどうなりたいのか、なりたくないのか、個人の価値観が明確になることで、進路(進学・就職)を慎重に選べるように促していく、このプログラムの一番の目的はここにあります。できるだけ就職に向き合う前の早い段階で、自分自身をみつめ、気づきが得られるための支援を大人は心がけていきたいものです。(毛利)










【ことば】

「傾聴」

 傾聴は字のとおり、耳に加えて(+)、目も心も傾けて集中すること。(横山)



 NHKのEテレ0655という番組で『toi toi toi!(トイトイトイ)』というのが流れていました。トイトイトイ(=「いいことがあるように」という意味)のおまじないをメロディにのせたゆる〜い曲で朝の番組にぴったりでした。語源的に悪魔を追い払うという意味が込められているのですが、なんとデーモン閣下が歌っていました(笑)。歌詞を載せたかったのですが、NHKから許可が下りず、放映も先週までだったようです。どこかで流れた時には耳を傾けてください。(横山)


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