2011-12-25 Webマガジン『我逢人』Vol.8 を発行しました。



【輪読会】「『友田不二男研究』を読む 〜傾聴の原点〜」(10/24〜2012/3/5)開催中です。各回毎に参加できます。




天龍寺 法堂天井 雲龍図

2012年にむけて

 2011年も残すところ後数日、未曾有の国難に遭遇した日本。世界に目を向けても、多くの国で変化が起き、歴史に刻まれる年だった。どれをとっても、これから何年も何十年先にまでも影響を及ぼす一大事が今年一度に起きたような印象を受ける。
 多くの課題を抱えながら迎える2012年は辰年。
 「たつ」という漢字を調べてみると、「龍、立、建、断、起」といったものが載っており、今の日本へのメッセージが象徴されているようである。
 来年は、古いものを断ち、昇竜の如き勢いで再建が進む起点の年となることを期待したい。(横山 慶一)

2011年を振返って

 今年は「命」について改めて考えさせられた一年でした。
 3月11日の東北地方の大震災と津波では、今まで普通に日常生活を営んでいた人々が、一瞬のうちに津波にのみこまれ、日常の風景ともども跡形なく消え去ってしまいました。映像を通してその現実を目の当たりにした私たちは、その事実の重さにとまどい、いろんな感情を抱きながらもその事実を受け止めざるを得ませんでした。改めて犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

 この夏、私の親友ががんの手術を受けました。「がんの疑いがあるのでしばらく入院することになりました」と手紙をもらうほんの一週間前まで、家族と楽しい夏を過ごしている様子をメールしてくれていました。祈りも届かずやはりそれは悪性だったようで、大変な手術を受け、今でも化学療法を続けています。
 先日、退院した折会うことができました。病気になったことで家族の絆が深まった気がする、これを乗り越えたら今までよりも豊かな人生が待っていると思う、この子のためにも絶対乗り越えてみせるよと、力強く話してくれました。いつも一緒に遊んでくれる幼い子供の横で彼女は今までよりも母親らしい凛とした顔つきでした。その思いに至るまでにたくさん涙し、葛藤し、苦しんだと思います・・それでも前を向いて生きていこうと決意した彼女を前に、なんて人間は強いんだろうとただただ敬虔な気持ちになりました。

 師走に入ったある日、訃報が飛び込んできました。
「大阪の父」と慕っていた方で、今年喜寿を迎えられたばかりでした。生涯現役を貫かれ、キャリア・コンサルタントとして仕事や研修などでよくご一緒させて頂きました。またいつも温かく見守ってくださる優しい方でした。私が人生に迷って一時独り身になった時、さりげなく近くに寄ったから「メシでも食いに行こうか」と声をかけてくださるような方でした。

二年前の夏にがんの手術を受けられ、いったん回復されたのですが、今年の夏、久しぶりにメールを頂いた文面には、体力が衰えて情けない、そこで何かここらで人生の新しい視点を求めて「自分探究」「自分探し」の修行の一人旅に出ることにした、北海道十勝のトマムにこもり、自然林の懐で少しものを考えてみようかなと思う、とありました。そのとき私は直感で、いよいよ死と向き合う覚悟を決められたのかなと感じ、「修行を終えられて無事にお戻りになられたら、どのようなことを想いながらお過ごしになられたのか、ぜひ私たち未熟者にお教えください」と返信し、戻られたらぜひ会わなければと強く思いました。
 けれど、そのメールがSさんとの最後のやりとりになってしまいました。秋に一言でもお声をかけて連絡をしておけばよかったと後悔ばかりが先にたちます。人生の大先輩でいらっしゃるのにいつも謙虚で好奇心旺盛で明るくて、目を閉じればやさしい笑顔が思い浮かびます。普段は会えなくても、何か困ったときには相談に乗ってくださり、進む勇気を与えてくださる方でした。その存在のあまりの大きさに、亡くなられた今気づいています。
 Sさんがお仲間と出されていた同人誌の一節に「大震災が教えてくれたのは、人生の不条理にまけない心の強さだと思う。思いわずらっても運命の流れに棹さすのは難しい。ならば自然体で自分の心の命ずるままに、一日一日を大切に、生かされているただ今現在の時間を精一杯生きてゆくことだ」と記されています。病と闘われ、老いと闘われた末にたどり着かれた境地だとお察しします。貴重なこのお言葉をいつも胸に生きていきたいと思いました。

 今年もたくさんの方と出会うことができました。人は一人では生きていけない、「絆」を日本の社会全体が再認識したように、人は助け合って生きています。そして出会えば必ず別れがある・・哀しい別れを乗り越えて前を向いて進んでいく人間の底力を信じ、来る新しい年が爽やかな光がさすような年であって欲しいと願いながら今年を終えたいと思います。(毛利)



対話における傾聴


 前号でコミュニケーションにおける「議論」「対話」「会話」の区別について書いた。その中でも「対話」は、カウンセリングの中核をなす重要な部分である。

「対話」は「関係性」と「傾聴」の2つの要素に注目して考えると理解しやすい。

対話 = 関係性 + 傾聴
           傾聴 = 一致性(congruence)あるいは透明性(transparency):純粋性、真実性など
              + 無条件の肯定的関心(unconditional positive regard):受容、好意、尊重など
              + 感情移入的理解(empathic understanding):共感



【関係性について】
 カウンセリングにおける関係性が非常に重視されるのは、クライエントがカウンセラーのことを、暖かくて信頼でき、客観的で共感的だと気づいた時、クライエントの人格の変化がおこると考えるからである。

 このような適切な人間関係が形成される必要十分条件として、ロジャーズは次の6つを上げている。

  1. Two persons are in psychological contact.
  2. The first whom we shall term the client, is in a state of incongruence, being vulnerable or anxious.
  3. The second person, whom we shall term the therapist, is congruent or integrated in the relationship.
  4. The therapist experiences unconditional positive regard for the client.
  5. The therapist experiences an empathic understanding of the client's internal frame of reference and endeavors to communicate this experience to the client.
  6. The communication to the client of the therapist's empathic understanding and unconditional positive regard is to a minimal degree achieved.
(“The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change” 1957)



 ここで注目されるは、ロジャースが「経験する(experience)」という表現を用いて伝えようとしていることであり、「聞く」という行為ではなく全身的な関わり方、つまり関係として捉えている点である。この点について、後年、カウンセラー側の心的な態度について、(1)一致性あるいは透明性(純粋性、真実性)、(2)無条件の肯定的関心(受容、好意、尊重など)、(3)感情移人的理解(共感)の3つが統合され、すべて同時に満たされている関係において、その人は、「カウンセラーと呼ばれる」と、さらに明確に言及している(『人間の潜在力(1980)』)。
 また、近年の研究においては、心理療法における共通治療要因の中で、治療的変化に寄与する順が、(1)治療外要因、(2)治療関係要因、(3)モデルや技法要因、(4)期待、希望、プラシーボ要因で、2番目の治療関係要因は30%の寄与率であるという調査報告(Lambert,1992)がある。その他、人間関係の流れの質はあらゆる心理療法において必須条件である(Hans Strupp 1995)、治療関係へのクライエントの参加の質が、治療結果を決定する最も重要な単一要因であるなど、関係性が治療同盟において非常に重要であるということは共通の認識となっている。

【傾聴とはなにか】
 傾聴とは、共感的・支持的・非妨害的なやり方で、「話し手の伝えたいことのエッセンスを言い返し、その言い返しが正しいかどうかを話し手に確かめてもらうこと」であり、話し手は、この体験の中で自分の内的なプロセスが明確になり、それを言語化でき、問題を探索し、行き詰まりを乗り越え、自分の体験的過程を進めることができるようになる(ニール・フリードマン、体験的傾聴)。すなわち、傾聴の応答は、この体験的流れに触れ、その流れを進展させる試みである。セラピストが単にクライアントのことばを言い返すだけでは足りない。ことばは気持ちではない。聞き手は、自分のことばが、話し手が象徴(ことば)を作り出す元にある具体的な体験的流れと比べるように確かめる。傾聴の応答がちょうどぴったりな場合には、体験的な効果が現れる。つまり、体験過程の流れが進展する(フリードマン)。これは「対話能力」であり、「傾聴技法」ではなく「対話技法」となるべきである。

【傾聴の学習】
 関係性を十分に踏まえた上での傾聴というのは、カール・ロジャーズの『感情の反射』という治療的応答と、ユージン・ジェンドリンの『体験的方法』の結合の産物といえる。
 傾聴されている人が何か言う。聴き手は話し手の表現全体を自分の内側に取り込み、それが内側でどのように響くかを感じ、そして、伝わってきたフェルトセンスを指し示すことばを伝え返す。次に聴き手は話し手に「私はちゃんととらえていますか」と確かめてもらう。もし「その通り」ならば、話し手は次に言いたいことに進む。もし「いや、ちょっと違って」いたならば、話し手と聴き手の発言を修正して、聴き手はもう一度ちゃんととらえて言い直す。「伝え返し」と「内側の確かめ」の両方を含めたこのプロセス全体が傾聴である。(ニール・フリードマン)
※「言い返し」とか「伝え返し」と表現されているものは、心理学用語で「反射」(reflection)と呼ばれてきたものである。

 前述のカウンセラーと呼ばれるための3つの態度のうち、第3の要素は、多分簡単な訓練によって、最も容易に向上するものである。治療者は極めて敏速に、よりすぐれた敏感な聞き手になり、感情移人的になることを学習することが可能である。それは、態度であるとともに、部分的には技能(スキル)でもある。しかし、よりありのままになり、より好意的になるためには、治療者は体験的に変化しなければならないし、これは長い期間と、もっと複雑なプロセスを要する(ロジャーズ)。この条件は、クライアントの理解の照合枠(frame of reference)を知的に理解することが可能なので、訓練が容易であるが、第1と第2の条件を満たすためには、セラピスト側に体験的変化がなければならず、この学習はそれほど早くやれるものではなく、もっと複雑なプロセスなので容易なことでは出来ないと言っているように思われる。いわば、訓練方法を見出せぬままになっているのである。一方、ジェンドリンやフリードマンのフォーカシングは、クリアリング・ア・スペースという作業場を作ったり、アン・ワイザー・コーネルの気がかりへの声掛けと、その気がかりと共にいることなど、フォーカシングは学習援助の方法ともなり得るもので、クライアントにもカウンセラーにも有効な成長や癒しの訓練や治療方法となっている(平河内健治)。

関係性や傾聴のトレーニングは抽象的で学習が難しいといわれるが、フォーカシングの技術を使いながら、ロジャーズの3つの心的な態度を意識して経験を積むことが大切だと思われる。(横山)

年末のご挨拶

みなさま

一年間ありがとうございました。

今年はToi Toi Toi !!! を立ち上げ、何をすれば社会のお役に立てるのか、私たちは試行錯誤の連続でした(今も...)。その中で多くの方々とめぐり逢い、助けていただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

来年は、すこしでも恩返しができるように精進してきます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。


 不立文字・教外別伝・直指人心・見性成仏
(ふりゅうもんじ・きょうげべち(つ)でん・じきしにんしん・けんしょうじょうぶつ)

 禅の神髄、標準成句とも言うべき言葉。「書かれた物に権威を持たせず、経論の教えとは別に、身をもって直接本性を把握し、悟りを体現した真の人間になること」といった意味。一句一句がカウンセリングの世界に通じる深い言葉。(横山)




 我逢人は、5月から月1回のペースで今号で8号、なんとか途絶えることなく発行できました。従来から軽い内容はブログに書いていたことに加え、6月からはFacebookも使い始め、一体このWeb Magazineに何を書くねん!と毎回半泣きで取り組んでました。というわけで内容的にはまだまだ未熟ですが、来年は方針をしっかりと決めて皆さんに読んでいただけるような内容にしたいと思います。投稿も受け付けようっと!(横山)


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